学校でのおもらし、背景に何が?海外の研究から考える、紙おむつとの付き合い方

「学校で、昼間おもらしをする子が増えているんです」
10年ほど前から、小学校の先生方より、こうしたお話を時々聞くようになりました。
「入学説明会で、『おもらしが心配なお子さんは着替えを持たせてください』と伝えています」
「バスでの長距離遠足では、『心配なお子さんは紙おむつをはかせてください』と保護者にお願いしています」
幼稚園の話ではありません。
小学校での話です。
子どもたちはどんな気持ちでいるのでしょうか。
漏らしちゃった。 周りに気づかれたくない。
着替えたいけれど、先生にどう伝えよう。
また漏れたらどうしよう……。
自分の意思ではどうにもできないことで、不安になったり、傷ついたりしている子がいるのではないでしょうか。
■現場から、声が上がっています
私が小学校の先生方から聞いたさきほどの話は、「たまたま耳にした話」ではありません。
日本体育大学の野井真吾教授らによる「子どもの“からだのおかしさ”に関する保育・教育現場の実感調査2020」※1)では、「オムツが取れない子/おもらしをする子が最近増えている」と感じる回答が、保育園で47%、幼稚園で58%、小学校で21%ありました。
複数の現場から、同じような変化を指摘する声が上がっているのです。
■中国では、1万人以上を対象に調査しています
海外でも、子どもの排泄トラブルの増加が指摘され、その背景を探ろうとする研究が行われています。
例えば中国。
伝統的に股割れズボンなどを使い、赤ちゃんの様子に合わせて、おむつの外での排泄をサポートする「排泄コミュニケーション(EC)」が行われてきました。
近年では、経済発展と共に、紙おむつが急速に普及。
こうした背景のもと、中国の研究チームが、4~10歳の子ども10,166人を対象に調査を行いました。
2021年にNature Portfolioが刊行する学術誌『Scientific Reports』に掲載された研究です※2)。
この研究では、赤ちゃんの排泄サインに応じて、おむつの外での排泄をサポートすること(排泄コミュニケーション)にも着目しています。
そして、紙おむつの長期使用や、排泄コミュニケーション開始の遅れと、尿失禁(おもらし)などの「膀胱腸機能障害」の有病割合の高さには関連性があると報告されています。
膀胱腸機能障害とは、おもらしなどの排尿の問題や、便秘などの排便の問題がある状態です。
ただし、この研究が、「おもらしなどの排泄トラブルは、紙おむつの長期使用や排泄コミュニケーション開始の遅れが原因だ」と証明したわけではありません。
紙おむつの使用期間や、排泄コミュニケーションを始めた時期と、排泄トラブルを抱える子どもの割合との関連を示した研究です。
他の海外の国々、例えば英国での研究や、複数の研究をまとめた別の研究などでも、トイレトレーニング(おむつ外し)を始めた時期の遅さと、その後の排尿トラブルとの関連性が報告されています※3)~6)。
■研究から、育児を支える指針へ
さらに中国では、こうした研究を含む国内外の知見を検討し、2025年に「乳幼児の排尿・排便トレーニングと紙おむつの適切な使用に関するガイドライン」が発表されました※7)。
中国の全国的な医学学術団体「中華医学会」の小児外科学分会の専門部会が、関連分野の専門家など、72人の参加によって作成したものです。
医療者や育児に関わる専門職に加え、家庭での排泄サポートにも指針を提供することを目的としています。
私が特に注目したのは、保護者に、分かりやすく知識を届けることの重要性が明記されている点です。
冊子、映像、インターネット、対面での説明などを通じて、排泄の発達や関わり方、紙おむつに過度に依存しない、適切な使い方を伝える。
子どもの排泄サインに気づき、応じる方法(排泄コミュニケーション)を学べるようにする。
そして、頻繁にトイレに誘いすぎたり、無理強いしたりすることを避ける。
これは、私が伝えてきた「自然なおむつ外し」と共通する視点です。
研究で得た知見を、日々の育児を支える情報につなげようとしているのです。
■知らないままでは、選べません
紙おむつは便利です。育児や保育を助けてくれる、心強い存在です。
でも、その便利さとともに、子どもの排泄の発達の本来の姿や、紙おむつの健康的な使い方・おむつ外しの時期に関する適切な情報が、十分に届けられているでしょうか。
中国のガイドラインを、そのまますべて日本に取り入れてほしいということではありません。
中国のガイドラインの推奨内容の細かい点については、国や専門家によって見解が異なるものもあります。
だからこそ、日本の医療の専門家にも検討してほしいのです。
私が調べてきた範囲では、日本で、おむつの使用期間や排泄への関わり方と、その後の排泄トラブルとの関連を十分に検討した研究に、まだ出会えていません。
海外では、さきほどご紹介した複数の論文のように、排泄の発達や健康の観点から、3歳を待たずに、おむつの外で排泄する経験を支えることを勧める医療の専門家の意見が増えています。 一方、日本では今も「3歳過ぎてからゆっくり焦らず」と説明する専門家が多い印象を、私は受けています。
幼児後期になって「昼間おもらしをしてしまう」「昼間のおむつがなかなか外れない」などの、排泄に関連したことで困っている保護者から、私はこんな言葉をよく聞きます。
「専門家から『おむつ外しは3歳過ぎてからゆっくり焦らず』と言われ、これまで何もしないできた。別の選択肢を知っていたら、違う関わり方を考えたと思う」
そして、このブログの冒頭で紹介した、「子どもの昼間のおもらしが最近、増えている」と感じる学校関係者が、少なくないという事実。
子どもの昼間のおもらしが本当に増えているなら、海外の国々のように、その原因やおむつとの関連性をちゃんと調べてほしい。
そして、海外の研究で分かってきたことがあるなら、選ぶための情報として届けてほしい。
もちろん、子どもの排泄にどう寄り添うかは、それぞれの家庭や保育施設で決めることです。
でも、そもそもの選択肢を知らなければ、選ぶことさえできません。
子どもが困ってから、初めて知るという、今のこの状況は改善されるべきだと思うのです。
■子どもの排泄の尊厳を守るために
学校でおもらしをしてしまう。
おもらしを恐れて活動を楽しめなかったり、人に知られないよう、一人で悩んだりする。
その苦しさを、見過ごしたくないのです。
昼間のおもらしが続く場合には、医療につなげることも含め、その子に合った支援が必要です。
同時に、学齢期の昼間のおもらしのような「排泄の困りごと」が生じる前から、排泄の仕組みや、生まれた時からの排泄経験を通じて育つ感覚について知り、日々の関わりを考えることもとても大切です。
赤ちゃんの様子に目を向ける。 排泄のタイミングに気づく。 無理のない範囲で、おむつの外で気持ちよく出す経験を支える。
紙おむつは便利だからこそ、頼りすぎないで、健康的に付き合う方法を知る。
それが紙おむつ時代の今の、育児や保育に必要な学びだと思うのです。
その学びの場として、私は「0歳からの自然なおむつ外しアドバイザー養成講座」をつくり、必要な方へ情報を伝え続けています。 実は、現代の子どもの排泄トラブルは、「学齢期の昼間のおもらし」以外にも、色々とあります。 でも、それらは、一般的なメディアではほとんど伝えられていません。
「0歳からの自然なおむつ外しアドバイザー養成講座」では、紙おむつに過度に依存することによって起こりうる、他の排泄トラブルについても、エビデンスと共にお伝えしています。
困っているのは、子どもです。
排泄に関わる子どもの今とこれからを、家庭だけに背負わせたくありません。
調べること。 伝えること。 日々の関わりを支えること。
子どもの排泄の尊厳を守るために、大人の社会ができることを、これからも進めていきたいと思っています。
<参考文献>
外国語の論文はAIがかなり正確に翻訳してくれます。ご興味ある方は、ぜひ、読んでみて下さい。
1)子どもの“からだのおかしさ”に関する保育・教育現場の実感調査
野井真吾ほか.子どもの“からだのおかしさ”に関する保育・教育現場の実感:「子どものからだの調査2020」の結果を基に.
2)排泄コミュニケーションの遅延が小児の膀胱直腸機能障害の有病率に及ぼす影響
Xu PC, Wang YH, Meng QJ, et al.(2021)Delayed elimination communication on the prevalence of children's bladder and bowel dysfunction.Scientific Reports, 11:12366.
3)トイレトレーニング方法の相違が膀胱コントロールの獲得に及ぼす影響を評価した質問票調査の結果
Bakker E, et al.(2002)Results of a questionnaire evaluating the effects of different methods of toilet training on achieving bladder control.BJU International, 90(4), 456–461.
4)トイレトレーニングの遅延は小児における切迫性尿失禁と関連する
Barone JG, et al.(2009)Later toilet training is associated with urge incontinence in children.Journal of Pediatric Urology, 5(6), 458–461.
5)トイレトレーニング開始年齢とその後の学齢期児童における日中膀胱コントロールに関する先行研究
Joinson C, et al.(2009)A prospective study of age at initiation of toilet training and subsequent daytime bladder control in school-age children.Journal of Developmental & Behavioral Pediatrics, 30(5), 385–393.
6)小児下部尿路機能障害とトイレトレーニングの遅延との関連:システマティックレビューおよびメタアナリシス
Li X, et al.(2020)Delayed in toilet training association with pediatric lower urinary tract dysfunction: A systematic review and meta-analysis.Journal of Pediatric Urology, 16(3), 352.e1–352.e8.
7)乳幼児におけるトイレトレーニングと使い捨ておむつの適正使用に関する中国ガイドライン
Chinese guidelines for toilet training and rational use of disposable diaper in infants and young children (2025).
中華医学会小児外科学分会・小児尿流動態および骨盤底学組.中国婴幼儿排尿排便训练和尿不湿合理应用指南(2025版).中华实用儿科临床杂志,2025,40(6):414–425.DOI:10.3760/cma.j.cn101070-20250303-00137
文責:和田智代(一般社団法人 こどもと家族の排泄サポート研究所 代表理事)
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